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三度の飯と本が好き

惜しみなく愛を注ぎ込む人たち

 熱しやすく冷めやすい性格だ。
 一度何かを好きになってしまったが最後、しばらくは寝ても覚めてもそのことしか考えられなくなる。たとえば映画だったら、本編だけでなく原作や出演者のプロフィールや関連作品やロケ地について調べつくし、それだけでは飽き足らず他の人の感想や考察や二次創作的なものを読みつくし、とにかくその作品に関連する情報を吸収しまくる。もちろん本編は複数回観るし、DVDが出たら買うし、原作があったらそれも揃えて買うし、グッズも欲しければ欲しいだけ買う。自分の使える限りの時間とお金を注ぎ込むのだ。でもある時突然、何の前触れもなく、その熱がふっと冷めてしまう。
 そんなことを繰り返すうちに、いつからか、何かを好きになったとしてもそれまでのように全エネルギーを傾けることはやめてしまった。だって、夢から醒める瞬間はいつだって虚しい。それで私は、いろんなことを (時間的にも金銭的にも) ほどほどに愛する術を身につけてきたのだ。

 だから、『浪費図鑑』にはいろいろな意味で衝撃を受けた。

浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)

浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)

 

  2016年末に発行され、大反響を呼んだ同人誌「悪友 vol.1 浪費」が書籍化!ということで、発売前から気になっていたこちらの本。某アイドル育成ゲーム、同人誌、アイドル、ホストなどといった、実にさまざまなジャンルでの「浪費」がテーマになっている。ソーシャルゲームに一晩で30万使う、聖地巡礼で行った土地を気に入り移住してしまう、好きなアイドルがイメージキャラクターを務める車を買って200万使った――と、エピソードをいくつか書き出してみるだけでもなかなかにパンチが効いている。それにしても、約2000人の「浪費女」を対象としたアンケートで、2割近くが「クレジットカードが止まったことがある」と回答しただなんて…。

  浪費話を嬉々として語る女たちを「馬鹿馬鹿しい」と笑い飛ばすのは、とても簡単なことだ。というか実際、冷静な目で見てみればこの本の内容のほとんどが正気の沙汰とは思えない。だというのに私には、彼女らがどうしようもなくうらやましく思えてしまう瞬間がある。
 この人たちは、いつか我に返ってしまうことを全然恐れていない。もちろん「その時」が来ることはわかっているのだろうけど、そんなことお構いなしに、自分が「今」ハマっているものにすべてのエネルギー (お金だったり、時間だったり) を捧げてしまう。たとえそのせいで貯金がゼロになり、生活費を削らなければいけなくなるとしても。趣味にそこまでするなんて、少なくとも今の私にはできない。だからこそ、余計眩しく感じてしまうのだと思う。
 こんなにも全力で何かを愛せてしまう人の姿は、良いも悪いも超えて、見る人にある種の感動を与える。対象が何であれ、惜しみなくすべてを捧げるなんていうのは簡単なことではない。たしかにこの本で描かれている「浪費」という形をとった愛は、決して正しいものではないかもしれない。だけど紛れもない、本物の愛であることは確かだ。

 …ただ、世の中の「浪費女」さんたちには、身を滅ぼすことだけはないように気を付けていただきたい。