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三度の飯と本が好き

「型どおり」と「型にはまらない魅力」と

 

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)

 

  野村萬斎といえば「型」という言葉を思い浮かべるけど、『七つの会議』もそういう映画だった。型どおりのキャラクターたち、型どおりのストーリー。コイツ悪いわ~と思ったやつはガチガチの悪いやつだし、裏切りそうなやつはちゃんと裏切るし、クズ男は最後までクズ男で、ムードメーカーは最後までムードメーカー。多少の想定外はあれど、どんでん返しは皆無、何もかもが「まあそうなるでしょうね」という感じで展開していく。

 だけどこれがまあ~面白いんだ。

 なんとなく先が読めるはずなのに、ついつい息をつめて観てしまう。手に汗にぎる。「スーツを着た平成の侍たちの時代劇」って言ってたのはこういうことなのかと。
 とはいえ、ただ型にはまってるだけじゃない、もちろん。お決まりの展開のようでありながら、ヒーローが悪役を倒してはいおしまい、めでたしめでたし、というお決まりのハッピーエンドになりきらないところに、この物語の魅力がある。誰が悪いか決められてしまえば楽なのにねえ。黒幕が移りかわり、どんどん大きなものへとつながっていくさまは純粋に怖かった。「俺のせいじゃない」という言葉が何度か出てきたけど、それもあながち嘘ではないのかもしれない。

 野村萬斎演じる八角民夫の異質さは、全体の「型」があるからこそ際立っているんだと思う。いやあ八角さん、浮いてた。異物感すごかった。いい意味でのわざとらしさというか、なんというか、あの存在感は野村萬斎だからこそでしょうね。声の出し方、身振り手振り、表情、視線、どれをとっても圧倒的。あの真っ黒のスーツも自前で用意したそうで。
 香川照之の演技についても、さすがとしか言いようがない。物語中で「ある決意」をしたときの北川誠の姿には、もう。鬼じゃないじゃん、人間じゃん。最後の最後に、鎧に守られていた弱さを見せつけられて、ぼろぼろ泣かずにいられるか。ラスト付近で八角と北川のアツいシーンがあるんですが、そこであえて表情がみえないのにもぐっ…ときてしまう。
 表情といえば、いくつかの場面で笑顔が印象的に使われているなあと思った。八角がある場面だけでみせた無邪気な笑顔、北川が八角に向けたあの笑顔。原島があそこで浜本のために作った笑顔も印象的だった。他にもなんかあった気がするけど思い出せない。「ある場面」だの「あの笑顔」だの「あそこ」だのなんのこっちゃと思われるかもしれないが、きっと観ればわかる。

 最所に「型どおり」とは言ったけど、それぞれのキャラクターがそれぞれの「型」におさまりきらない何かを抱えている、ってことがうっすら伝わってきて、だからヒーロー役も悪役もみんな魅力的なんだろうなあ。もちろん、演者たちの演技力や熱量があってこそなんだろうけど。とにかく登場人物全員、濃い。強い。そして推せる。
 さてあなたの推しキャラは誰でしたか。わたしにもたくさん推しがいるんですが、1人だけ選べといわれればオリエンタルラジオの藤森慎吾が演じた新田ですかね…。藤森の演技はじめてみた、とっても良かった。この新田はどうしようもないクズ男なんだけど、どうも人間臭いところに惹かれてしまう。
 あんなクズ男にも妻子がいて、ということは守るべきものがちゃんとあるんだなあと思うと、なんだかいとおしく…はならないか、別に。